ノルウェーの「スパイの街」でロシアのスパイを追跡 | WSJ

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スパイの影が揺れる国境の街キルケネスで ノルウェー最東端、ロシアとの国境に位置するキルケネスは、かつて「スパイの街」と呼ばれ、冷戦時代から続く緊張の只中にある。NATOの要衝に近く、ロシアと地理的・歴史的にも深いつながりを持つこの町は、現在も国家間の諜報戦の最前線だ。ノルウェーの国内情報機関は、ロシアのスパイ活動やハイブリッド戦術に対抗するため、日々警戒を強めている。 町の日常は、目に見えない監視と疑念の空気に包まれる。住民や当局者は、ロシアとの接点を持つあらゆるものに敏感だ。道端に何度も見かける車や、見知らぬ誰かが写真を撮る姿が、ただの偶然か、それとも意図的なものか、疑心暗鬼に拍車をかける。国境のフェンスの向こうはすぐロシア領。そこは、ロシア側からのNATO監視活動の拠点となり、過去には軍事インフラを写真に収めて摘発されたロシア人もいた。 諜報活動は巧妙さを増している。ノルウェー国内にも「偽装身分」のスパイが潜入し、大学研究者や市民として社会に溶け込む。2022年には、ブラジル人研究者を装ったロシアのスパイが逮捕され、2024年には囚人交換で帰国するという事件も発生。こうした「ディープカバー」以外にも、サイバー攻撃や破壊工作、放火といったハイブリッド戦術が欧州各地で頻発し、ノルウェー北部は特に脆弱と見なされている。 海上でも警戒は続く。バレンツ海へのアクセスと重要な漁場を持つこの地域では、ロシアのトロール船が偵察活動の隠れ蓑になっているとの疑いが持たれている。ノルウェー側は、民間船舶であっても軍事的な情報収集や人員輸送に利用されるリスクを警戒し、入港船の乗組員を厳しく監視している。見た目は普通の水夫でも、訓練されたエージェントが紛れている可能性は否定できない。 この町で生きる人々の人生も、スパイ活動と無縁ではいられない。かつて国境警備隊員としてロシア側と親しく交流した男性は、のちにノルウェーの情報機関の協力者となり、逆にロシアでスパイ容疑で拘束された。信頼していたロシア人の友人も実はFSB(ロシア連邦保安庁)要員だったことが後に判明し、冷戦後の友好ムードも今は過去のものとなった。 ウクライナ侵攻以降、キルケネスはロシアとの距離感を再考せざるを得ない状況にある。住民の中には、ワグネルの旗を掲げたり、親ロシア的な立場を示す者もいれば、逆に慎重な態度を取る者も多い。SNSやメッセージアプリを通じて、越境する市民に頼んで荷物や情報を運ばせる新たなスパイ技術も使われている。日常の一コマが、国家間の駆け引きに巻き込まれる現実だ。 今や、キルケネスの静かな街並みも、見えない監視と緊張の気配に満ちている。国境を挟んだ両国の若い兵士たちも、対話のないまま、お互いを注視し続けるしかない。大きな地政学的うねりの中で、町の空気は疑いと警戒に染まり、住民たちは「いつも誰かに見られている」感覚とともに暮らしている。北極圏の国境の街は、いまも静かなる諜報戦の只中にある。
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ノルウェーの「スパイの街」でロシアのスパイを追跡 | WSJ

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